イタリアのタンナー・ボナウド社が作る皮革、モンパルナス(Montparnasse)をご紹介致します。
今までWILDSWANSでは世界中にある様々な優れた皮革を使用して参りましたが、今回ご紹介させていただく「モンパルナス(Montparnasse)」と呼ばれる皮革もその内の一つに加わるべき大変優れた皮革で、WILDSWANSとしては久々に心躍る出会いとなった素材です。
この皮革を製作しているボナウド社(Bonaudo SPA)はイタリアを代表するタンナーの1つで、カーフから鹿、羊、山羊、カンガルーなど、主にクロム鞣しによる様々な皮革を製造しています。
1923年創業とその歴史は古く、途中イタリア戦線の戦火による被害などを乗り越えて着実に発展を続け、規模の拡大や設備の近代化などを行いながら現在ではイタリア内に3つの生産施設を抱える巨大なタンナーとなっています。
ボナウド社が生み出す上品で上質な皮革は世界中で需要が高く、高級紳士靴やファッション系の様々なアイテムに至るまで、名立たる大手メゾンからも高い信頼を得ています。
またボナウド社は持続可能性や環境問題に対する意識が非常に高く、水やエネルギーの消費を最小限に抑えるべく最新鋭の設備と自然を融合させた設備を導入するなど、様々な対策を行っています。
皮革の製造には水の存在が不可欠で、実際にその製造工程では多量の水が使用されるため、多くのタンナーが各国で取り決められた規制や社として定めた基準に則り、排水をはじめとする自然環境への影響を減らす努力を行っておりますが、ボナウド社はこの取り組みによって結果的に製造工程で使用される水の量を半分に減らし、且つその水は全て工場内で浄化するといった成果を上げているそうです。
伝統と近代化を融合させ、製造する皮革とそれを取り巻く環境に対する意識の高さが伺えます。
今回WILDSWANSではそのボナウド社が製造する皮革の中から、「モンパルナス(Montparnasse)」と呼ばれるクロム鞣しのカーフを用いたアイテムを製作することになりました。
日本国内では圧倒的に無名ではありますが、質感や発色、耐久性など、鞄や革小物の素材としてのポテンシャルは高く、非常に魅力的な皮革です。
厳選された良質な原皮を用い、鞣し終えた後の染色前の段階では、半年間濡れた状態で皮革を寝かせ、熟成を行う事で強度を高めて伸びに強い性質を引き出すなど、手間暇を惜しまない工程によって極めて上質な皮革素材に仕上げられております。
実際にモンパルナスに触れてみるとその滑らかな手触りからは繊維密度の高さが伺え、しなやかながらもコシがあるといった上質なカーフ特有の特徴を備えていることが分かります。
手触りはふんわりとソフトですが、しっかりとした強さも感じさせる感触です。
またこの皮革の大きな特徴として、完全にバッグ用に製作されているという点が挙げられます。
市場に出ている高級なカーフ素材は主に紳士靴向けに開発されている場合が多いのですが、ボナウド社の中でもこの皮革はバッグ用、という明確な使用目的を持って製作されています。
手のひらで触り続けたくなるような柔軟な手触りもそうですが、皮革自体の弾力と表面のシボによって比較的傷が付きにくく、水分による染みやブクも発生しにくいため、実用性・耐久性の面から見ても非常に優れた素材です。
※但し他の皮革同様に、強い摩擦や濡れた状態での摩擦が加わりますと移染する可能性がございますので、明るい色のお召物には十分ご注意くださいませ。
クロム鞣しの皮革ですので目を見張るようなエイジングは見られませんが、日常生活での摩擦が加わりますと少しだけ光沢が上がります。
またソフトな質感でありながら長く使ってもだらしなく伸びない点には本当に驚きます。
お手入れも殆ど必要なくブラッシングと乾拭きで十分ですので、使うほどにしみじみと良さを体感できる皮革です。
こちらはモンパルナスのブラックを用いて製作したJEAN(M)というトートバッグです。
今後製作されるモデルとは異なりますが、スタッフが2年間に渡り使用しています。
まず驚かされるのは、数年の使用にも関わらず革のヘタリや伸びによるシルエットの歪みなどが感じられない点で、しなやかさの中にもコシを残しています。
また銀面は強く傷や汚れにも強いために今以て生き生きとしており、表面には薄らと光沢が現れて来た事でより一層の風格が出てきたようです。
使い込む程に湧く愛着と、それに耐えうる強度を持ち合わせたモンパルナス、作業効率やコストが優先されるクロム鞣しの業界に於いて、半年間濡れた状態で皮革を寝かせて熟成を行うという製法は大変珍しく、世界的に見てもユニークな皮革です。
現在このモンパルナスを使用した数種類の鞄の新作を製作中ですが、皮革の質感や特性を活かし、それぞれが様々なスタイルにてお使い頂けるアイテムとなっております。
これらのアイテムは準備が整い次第、改めてこちらのブログにてご案内をさせて頂きますので、どうぞお愉しみに。